人事労務の法律教室

こんにちは、社会保険労務士の菊池です。


 今回は、「人事労務の法律教室」と題して人事労務の素朴な疑問について書き
たいと思います。

~1年契約で雇用したのに2ヶ月で退職。会社は損害賠償できる?~

Q:1年契約で雇用した契約社員が入社して2ヶ月で辞めると言いだしました。
 1年契約なのだから最低でも1年は働く義務があるのではないでしょうか?前任者
 からの引き継ぎを終えてこれから戦力になってもらおうと思った矢先だったので
 腹立たしいです。契約違反で損害賠償できますか?

A:契約期間の途中で辞めたせいで顧客を失ったなどの損害があれば損害賠償の
 請求は可能です。ただし、待遇が契約と違った等、やむを得ない事由で辞めた場合
 は請求できません。尚、実際に請求するかどうかは、在職者への影響や企業イメージ
 の低下なども考えて慎重に検討すべきでしょう。

○やむを得ない事由がなければ中途解約できない
  パートタイマーや契約社員を6ヶ月や1年の有期契約で雇用している会社は多い
 でしょう。有期契約については労働契約法17条において、使用者側からの解雇
 (中途解約)は原則としてできないと定められています。
 では、労働者側からの中途解約はどうでしょうか?それについては民法に規定が
 あります。

  民法628条  当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由が
 あるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、
 その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して
 損害賠償責任を負う。

  前述した労働契約法17条は、そもそもこの民法の定めを明確にしたものですが、
 民法の方は「各当事者」、つまり、使用者だけでなく労働者側からの中途解約につい
 ても、やむを得ない事由がある場合は中途解約できるが、そうでなければ中途解約
 できないと定めているのです。※
 ※契約期間が1年を超える場合は、原則として契約初日から1年経過後であれば
 いつでも労働者から自由に退職(中途解約)できます。

○やむを得ない事由とは?
  労働者側から中途解約する場合、どのような事情があれば「やむを得ない事由」
 と言えるのでしょうか?
  例えば、会社が労働者の生命・身体に危害を及ぼす労働や法令違反の業務を命じ
 たとき、賃金の不払いなどの重大な契約違反があったとき、労働条件が当初の契約と
 違ったとき、家族の介護、配偶者の転勤、長期療養が必要な傷病に罹ったとき等が
 考えられます。
  こうしたやむを得ない事由が無いのに中途解約する場合、会社は損害賠償を請求
 することができます。また、やむを得ない事由があるといっても、労働者の過失によって
 生じたものであるときは損害賠償の請求ができます。

○損害賠償金額は?
  損害賠償を請求できる場合、いくらくらい請求できるのでしょうか?社員の退職に
 よって会社は、求人広告費、研修や引き継ぎ等の育成費、その他様々な費用をムダに
 したことになります。しかし、辞めることで発生する可能性がある損害を何から何まで
 請求できるわけではありません。求人広告費や業務に必要な一般的な育成費等の
 請求は認められないでしょう。
  しかし、例えば特定のプロジェクトのために雇用した社員が退職し、そのプロジェクト
 が頓挫して損害を被った等という場合であれば請求が可能と考えられます。
  社員の一方的な退職に対して会社の損害賠償が認められた例は  実際にはほとんど
 ありません。が、損害賠償金額について参考になる裁判例を一つご紹 介します。
  これは有期契約ではなく無期契約の例ですが、特定の業務のために採用した社員
 が1週間で突然退職したため、その業務について顧客を失い、得るはずであった
 1,000万円の利益を失ったケースです。判決では、1,000万円のうち人件費その他の
 経費等を差し引くと実損害額それほど多額ではないこと、採用に不手際があったこと
 等を理由に、損害を70万円に減額にして元社員に支払いを命じています。

○損害賠償請求よりも...
  ただ、実際のところ退職した社員への損害賠償請求は慎重に検討すべきです。
 在職者への影響や会社のイメージの低下を招く恐れがあること等も考えておかなければ
 ならないでしょう。
  尚、「期間途中で退職したら○○万円」等、あらかじめ違約金を定めておくことは
 違法です。「懲戒解雇扱いにする」と脅したり、腹いせに雇用保険の離職証明書を発行
 しない等の嫌がらせをすることも許されません。
  腹立たしい気持ちも分かりますが、損害賠償請求や腹いせよりも、社員の定着率が
 上がるような働き甲斐のある会社作りに力を注いだ方が良いという考え方もあるのでは
 ないでしょうか?


では次回をお楽しみに!